理由
宮部みゆきさんの直木賞受賞作です。
この話は最初から最後まで一貫して、事件後に当事者にインタビューをする形式で書かれていて、その目線が珍しい感じがしました。
都心の高級マンション(いわゆるオクション)で起こった事件。
4人の死体は当初家族だと思われていたのだが、全くの他人であった。
無理して買ったマンション、支払いが滞り競売に掛けられることになる。
競売という言葉は、今でこそ耳に新しい言葉ではないけれど、それでも一般の人には縁の薄いものだと思う。
占有屋も然り。
ドラマや小説の中では、結構見聞きする。
この作品の中では、占有屋の四人が「家族に見えた他人の寄せ集まり」の被害者となっている。
けれど、それに関わる人達にも共通した部分が出てくる。
「家族」から逃げたいという心理。
これは分からないでもない。
家族から開放されて自由になりたいと思いながらも、また他人と家族同様に暮らしてしまう被害者達。
やはり、求めてしまうものなのかな。
特に親が子供に対してとる態度は、子供の側(と言ってもある程度の年齢)から見てみると、干渉や束縛と受け取れることがある。
私自身も、思春期などには、親の心配がわずらわしいと思ったこともあるし、今では、子供が私をそう思っているだろうなと思う時もある。
この作品の中にでてくるほど強くはないだろうけど。
そして、この作品のなかの「家族から逃げた」人は、立場としては子供ではあるけれど、社会的には大人(年老いた親と中年の子供)も何人か出てくる。
誰しもがもっているだろうエゴとエゴが重なり合い、無関心な割りに無責任な噂が蔓延し、逃げたかったはずのしがらみを求めてしまっている。
今の風潮なら「起こり得る」と思えそうな、リアリティのある作品でした。